お子さんの人生も救うかもしれないもの

お子さんの人生も救うかもしれないもの

2022年1月23日

Vol.920

 

教育関連の業界では、高校の国語教科書が話題になっています。

来年度から新たに改訂される高校教科書ですが、その中に「現代の国語」という科目があるのですが、ここでは「小説を扱わない」(契約書、ガイドラインといった実用文書を主に扱う)という方針だったようです。

 

そこに一部、小説を扱った教科書会社があり、その教科書が検定を通過してしまいます。

さらに高校の採択状況を見てみると、「小説付き」の教科書が多くの学校で採択される結果となり、他の教科書会社からは「話が違う」と言われてしまっているようです。

 

「高校の国語の先生は小説が好きなんだなぁ」という何とも適当な感想が、私の思うところです。

 

 

小説は役に立たない?

小説文というと、なんとなく「娯楽」的な印象が強い方も多いのではないでしょうか。

私も学生時代は「小説なんて個人の趣味で読めばいいじゃないか」と思っていたりしました。

 

何か自分にとっての新しい「考え」や「知識」を得られる文章には価値があり、ただ読んで楽しむだけの文章な価値が低い。そう学生時代の私は考えていました。

今となっては浅はかな考えだとは思いますが。

 

では中高生が「小説」を勉強として学び、その後の人生で「娯楽以外の目的」で小説を読むことの意義はなんなのか。

今日のブログでは、私の思うところを書いてみようと思います。

 

 

作家が小説を書く理由

小説に限らず、世の中にや音楽・絵画・映画・写真などの芸術があります。

その芸術について私の好きな考え方があります。

 

「どの芸術も、それでしか伝えられないものを伝えている」

という考えです。

 

つまり、

小説を書いた作家に「この作品で伝えたいことは何ですか?」という質問は意味をなさないということです。

 

「○○という事を伝えたい」と一言で言えるくらなら、そもそも小説なんか書いてないんですね。

伝えたいことがあるけれど、とても一言や二言で言うことはできない。

そういう人が小説を書き、音楽をつくり、絵を描くのではないでしょうか。

 

そういうと、こんな意見もあるかもしれません。

「そうしたら、読む人によって伝わる内容が違ってしまうのではないか」

確かにそうだと思います

しかし、それは実は日常会話でも同じではないでしょうか。

 

友人と一緒にラーメンを食べて

「これ、すっごい美味しいね」

と言って共感したところで、2人の味覚を交換することはできません。

私達が常に「誤解」の幅を持ちながら言葉を交わしているのは、何も小説だけの話ではないはずです。

 

そうして「誤解」が生じることも覚悟のうえで、作家は「その小説を読む」ことでしか伝わらない(と思っている)何かを伝えようとしているのだと思います。

 

 

これだけは知っておいてほしい

では、中高生が学校で「小説」を学ぶ意義はなんでしょうか。

それが文学表現を学ぶという事だと考えています。

 

少し具体的な例をあげます。

小中学生の国語の指導をしていると、「目を細める」「天を仰ぐ」といった表現の意味が分からない生徒は実に多いです。

細かな表現が分からないままでは、作家が伝えたいものを受け取ることはやはり難しいのではないかと思います。

 

もちろん細かな表現に対する感受性が高く、多くを語らずとも受け止めることができる子はいるかもしれません。

しかし、感受性が高いとは言えず「いちいち説明してもらう必要がある子」もまたいるはずです。

いちいち表現を説明することは野暮なことかもしれません。

しかし、学生の間くらいは、そういった「説明」をしてもらう事も許されて良いのではないでしょうか。

 

そして、生徒に「これだけは知ってほしい」という事があります。

 

これからの長い人生の中で、傷つくことや落ち込むことが必ずあるはずです。

そして、その原因が「人に相談できないこと」や「周りのだれもが理解してくれないこと」である可能性もきっとあるはずなんです。

そうしたときにこと、小説の中に「自分と同じ気持ち」を見つけるかもしれません。

主人公ではないかもしれない。

その人物は幸せにならないかもしれない。

それでも良いんです。「自分と同じだ」と思える人がそこにいれば。

 

「そんなに簡単には見つからない」と思う子もいるかもしれません。

しかし安心してください。

そのために私達の言葉には「誤解」の幅があるんです。

たとえ作家が「そういう事」を意図していなかったとしても、読み手が「これは私のための小説だ」と感じる可能性は十分にあるんです。

 

人は「自分のつらい気持ち」と同じ思いの人がいると知るだけでものすごく気持ちが楽になります。私にも経験があります。

自分の境遇は何一つ変わらなかったとしても。

自分ひとりじゃない、と思えるだけで救われることはたくさんあるんです。

 

小説の中の世界が、その子の人生を助けてくれる可能性は確かにあります。 

そんな可能性に備えて、小中学生が「小説の読み方」を身に付ける意義は大きいのではないでしょうか。

 

お子さんは作家の「なにか」を受け止められますか。

 

最後まで読んで頂いてありがとうございます。