塾とAIを考える

2019年12月8日

vol.816

 

つばめ学院の関口です。

 

今日はAIと塾について書いてみようと思います。

AIはいろいろな分野に進出してきています。「AIが仕事を奪う」なんて言われていますね。

では塾の業界でどうなんでしょうか。

 

もちろん、私が答えを持っているわけではないですが、思うところを書いてみようと思います。

今後の塾選びの参考になれば幸いです。

 

 

教育の業界にもAIが進出

塾に限らず教育業界へのAI進出は進んでいます。

具体的な記載は避けますが、AIを組み込んだ映像教材もいくつか出てきています。

最近の話題なところで言えば、共通テストの記述問題をAIに採点させてはどうかというアイデアがありました。

(記述問題そのものがなくなりそうですが・・・)

 

先に結論を言ってしまうと、私はこのAIを組み込んだ教材のようなものはうまくいかないだろうなと思っています。

理由については、この下でゆっくりとご説明します。

 

確かに優秀なAIを組み込んだ教材があれば、どの生徒がどの問題で、どう間違えたかを分析してしかるべき場所まで戻って復習を促すことができそうです。

 

そんなAI教材を紹介する記事をみながら、以前に読んだ記事を思い出しました。

「採用選考に「AI」を導入しようとしたが、断念した会社の話が面白かった。」

 

 

理由を説明できないAI

ご紹介した記事の内容を、私なりにざっくり説明します。

ある会社が人事採用の選考で「AI」を導入しようとしたけれど、AIは自ら出した結果の「理由」を説明できなかったそうです。まあ当然ですが。

人事部の担当としては、AIが書類を分析した結果として「不適」という結果を出したとしても、その「理由」が知りたい。

AIの答え自体は瞬時にでるけれど、その妥当性を人が評価できない。なぜなら「理由」が分からないから。

そんなお話でした。

 

これは非常に興味深いお話だなと思って、私もずっと覚えていました。

本質的に「人間」と「AI」は答えに至るプロセスが全く違うので、答えが出れば良いだけのもので活用はできても、その「プロセス」を評価することが非常に難しいということだと思います。

 

新井紀子先生の「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」や「AIに負けない子どもを育てる」などの本を読むと、AIというやつが、いかに人間とは異質な思考(?)をするのかが良く分かります。

人間が当たり前に理解できる事を、コンピューターに理解させようとすると大変なんですよね。

小学生なんかにこの話をすると、ものすごく喜んで聞いてくれます。

 

 

塾にとって必要なことは?

お話を塾に戻します。

つばめ学院はAI教材を使っていませんが、必要に応じて戻り学習はしてもらいます。

特に新規入塾の生徒などが、「いまやっているここ」なんかより、その前提を理解していなければ、戻って理解してもらいます。

方程式を解いていても、そもそも分数の足し算、いや通分ができていなければ戻るしかないですよね。

 

で、そんな分かりやすい戻り学習であれば、私が見れば十分なんでAIの技術を駆使するまでもないです。

AIの有効性が際立つのは、なによりも「人が見ただけでは見抜くことのできない"本当のつまづき"を発見できる」からではないでしょうか。

 

ところがそんな場面を想像すると、なんか変な事になるんです。

例えば「三角形の合同の証明」を解いて間違えると、いきなり「君には文字式の計算が必要だ!」とAIが結論したりするわけです。(想像ですけど)

こんな事が起きたら、あまりに私の理解を超えていますので、私には発見できません。

 

そこで私は意気揚々と生徒に言うわけです。「君のつまづきの原因は"文字式の計算"にあるんだっ!」と。

でも普通の子だったら、気になりますよね。

「先生、でもいまは証明問題なんですけど、、、なんで文字式のしかも計算なんですか?」

 

これ、答えようがないですよね。。。

AIに理由を聞いても、AIがその結論を出したのは膨大なデータの中からの相関関係だったり、その他統計処理の結果だったりするわけですよね。

とくに演繹的に考えてそう結論したわけではのに、理由を聞かれても答えようがない。はずなんです。

 

ところは、塾の現場は違います。

まさしくその「理由」こそが大切なんです。

もっと言うならば、「それらしい物語」が塾の現場での価値だと思っています。

 

「今の君は、ここでつまづいているよね。でも本当のつまづきはもっと前にあるんだ。だから一緒にまず復習をしようよ。この復習が理解できれば、君はこんな感じになって、今の問題はこんな感じに見えるはず。そうなったら、これからの問題だってラクショーになると思わない?」

というような物語です。

 

重要な事は分析結果の精度そのものではなく、その結果のなかに、生徒がそれを信じて「やろう」と思えるような希望を見いだせるのかどうかではないでしょうか。

生徒が元気になって、前向きに学習をするようになれば、ほとんどの障害は乗り越えることができます。

だから厳密な精度なんかより、生徒が元気になるような物語を語れるかどうかがポイントなんだと思います。

 

「教育は人と人のつながりのなかで・・・」というような感情論を言いたいわけではありません。

ただ、私が現場でいつも気にしているのは、「どうやったら、この子はメッチャ勉強するような元気を手にできるかな?」なんです。

そのために戻り学習が必要だったり、つまづきの原因が必要だったりもします。

ただ、それには理由という「物語」が絶対に必要です。その物語を語れないうちは、AIが塾の現場で主役になる事はないのだろうと思います。

 

塾を選ぶ際にぜひご確認ください。

「うちはその子の課題を正確に見抜くノウハウ(技術、アルゴリズム)があります!」という言葉だけでなく、その人が本当にお子さんを元気にしてくれそうな人なのかどうかを。

 

最後まで読んで頂いてありがとうございます。